第14回ショパン国際ピアノコンクール審査委員長
アンジェイ・ヤシンスキ教授に聞く


聞き手・写真/ポーランド市民交流友の会 影山美恵子



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繊細なヤシンスキ教授の大きな手


インタビューを受けるヤシンスキ教授 (左)影山 今春3月22日から4月4日まで、『ショパンアカデミー学院ピアノ教師のためのセミナー』(ポーランド市民交流友の会主催、ポーランド共和国大使館後援、日本ショパン協会後援)が、ポーランドの芸術研修所:Radziejowice宮殿(ワルシャワ南,車で45分)で開催された。このうち2000年ショパン国際ピアノコンクールの審査委員長であり、ツィメルマンの師として名高いアンジェイ・ヤシンスキ教授が、カトヴィッツェから講師として来られた。レクチャーと個人レッスンの合間を縫って、お話しを伺った。

----去年に引き続き、今回も『ピアノ教師のためのセミナー』の指導を担当していただきありがとうございます。

ヤシンスキ(以下J): 私たちの指導を生かすのは、受講する生徒次第です。教師は「能力引き出し」のお手伝いするだけです。

---教授は、若きピアニストの登竜門である、ショパン国際ピアノコンクールの本年度審査委員長をエキエル教授からバトンタッチされますね。新しい変化がありますか?

J: 国際ピアノコンクールは世界各国色々なところで開催されますが、ショパン国際コンクールとの違いは、ピアノテクニックだけでなく、ショパンの心の表現力がいかに湧き出ているかで左右されます。それはショパンの生い立ち、ポーランドへの愛国心、ポーランドの風景、歴史背景などが基盤です。このようなコンクールはワルシャワ市開催のショパン国際コンクールだけです。今年の審査委員も24名になると思いますが、私の要望で審査方法を少し変える予定です。

 1つに、いままで得点による審査方法でしたが、それを、YES またはNOのどちらかで答える方法です。

 2つ目に、6月に参加者が(3月の締切で250人の応募)90〜100人ぐら いに絞られ発表されますが、その発表から10月のコンクールまでに、審査委員 の個人レッスンを受講した場合、個人レッスンを指導した教授は、その生徒が競 技する予選、本選の審査に参加することができません。その教授を除いた審査委 員で審査します。

 3つ目に、過去6年間に審査員の教授を長期において師事とする参加者も同様 に、審査員は競技する予選、本選の審査に参加することができません。その教授 を除いた審査委員で審査します。

 この新しい審査方法は、過去のショパンコンクールがマスコミにいろいろ疑問を 投げかけられたことや、個人レッスンを受けることが出来ない苦学生に対して、 フェアでないからです。コンクールに参加する人達、また世界に対してショパン コンクールが真実公明正大であること訴えたいのです。

個人レッスンをするヤシンスキ教授---日本はポーランドから遠く離れた国ですし、環境、教育システムなど全てが 異なりますが、日本人のショパンの表現力はいかがでしょうか?

J: 私は、日本へは7回来日しました。又、毎夏開催する夏期セミナーには日本 人が常時10〜15人位参加していますので、日本人を多少理解しています。 日本人は控えめで、慎ましく静かです。しかし、ショパンを演奏するとき、心が 解き放されたように自由に大胆にショパンを表現します。ショパンの音楽を通し て外見から見えないものを表現するようです。

 日本人は、テクニックは大変上手です。特に集中力があります。目的に向かって 猛進するところを感じます。ヨーロッパ人は、日本人のようにがむしゃらという ことに欠けています。

 しかし、ヨーロッパには多くの日本人のピアニストが在住しています。不思議な ことに皆さん日本には帰りたくないと言います。私は、しばらくドイツに住んで いましたが、いつも自分の国には帰りたかったです。ですから、日本人はどうし て帰りたくないのかと、私流の理由を発見しました。それは、日本から長く離れ すぎてしまったこと。つまり友達とか自分の世界が日本に無いことを感じるから と思います。日本にはピアノを弾く人が沢山います。帰国すればまた厳しい競争 に揉まれなくてはならなくなるからだとも思います。そして、ヨーロッパの自由 で解放されて生活のせいもあると思います。日本とヨーロッパの生活はたいへん 違います。

レクチャー後、受講生と記念写真---では、ショパンを学ぶには日本人がポーランドに来るべきと思われますか?

J: ピアニストは繊細です。繊細な人は、ショパンの生家で感じた木々のざわめ き、直筆のショパンの文字の流れ、果てしなく広がる大地、又、ショパン聖十字 架教会でショパンの心臓が置かれているというプレートに触れたときの感触な ど、それらの感慨を忘れることが出来ないはずです。それを思い浮かべながら、 ピアノに表現することが出来ます。また、私たちポーランド人と対面してくださ い。ポーランドに足を運び、ショパンが心底愛した国の空気に触れ、新たなショ パンを表現していただきたい。

 21世紀は近代化されつつ、コンピュータ、ハイテクと時代はどんどん超スピー ドで変わります。が、人間の心は基本的には変わっていません。夢、幸福、愛情 を追及する心です。

 それが、ショパンの神髄と思います。

(2000.05.16 ピアノ音楽誌『ショパン』6月号(平成12年5月20日発売)掲載予定)



2000年ショパン国際ピアノコンクールのパンフレット




ショパンの生家(ジェラゾヴァ・ヴォラ)のパンフレット

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