音楽の友5月号掲載 特集鍵盤道を極める匠たち

『ラファウ・ブレハッチ、ショパンを語る』

取材・文/写真:ポーランド市民交流友の会 影山美恵子 2008.5/5

「浜松国際コンクールでの経験が自信になり、役に立ちました。」

-----ショパンを初めて演奏したのはいつだったか覚えていますか。

R:はい、11才の時です。初めて弾いたショパンの作品は、ノクターン作品32でした。ショパンの音楽にある憂鬱とか悲哀とかいったセンチメンタルな感情などが、私の心情に合う特別な音楽です。よく皆さんから「では、ショパンのどの作品が一番好きですか?」と聞かれますが、答えは『すべて』です。ですからショパンコンクール出ることは、子どもの頃からの夢でした。

-----審査委員長のヤシンスキ教授がワルシャワのショパン協会で2010年のショパンコンクールについてインタヴューに答えられていました。審査員の一部も発表されています。次のコンクールに向けている人へメッセージとかアドバイスなどありましたら。

-----アドバイス?(笑)それはむずかしいです。ピアニストには各自のポリシーがありますから、私の考えが他の方に適しているとは思っていません。私の場合は、浜松国際コンクールでの精神的体力的に厳しい貴重な経験が大きな自信になり、役立ちました。さらにショパンコンクールの6ケ月前、ポーランド人を対象にした「若きピアニストのためのショパン・コンクール」がワルシャワで開催され、それを『ショパンコンクール』のつもりで挑戦しました。コンクール期間中は、自分の演奏のみに集中力を維持することに徹底していました。例えば、他のコンテスタントの演奏を聴かないことや、インタヴューを受けないとか、予選が終わるとすぐ自宅に帰りました。期間中の雰囲気に押されないように、自分を隔離していました(笑)。これらはみな私に適していました。

-----長い期間、慎重に準備されたのですね。

R:はい、私の大きな目標でしたから。今度再挑戦するなら、同じようにすると思います。

-----実際、あなたは若く、ショパンとあなたとの共通点などを考えると、ショパンを理解し、演奏するのはむずかしいのではないですか?

R:もちろん、今の私と時代も環境も全く違います。ショパンは演奏会をあまり好んでいなかったようですが、私は大好きです(笑)! 私はショパンの人生や、時代背景についての本をたくさん読みました。ショパンが友人や生徒とやりとりしたプライヴェートな手紙も読みました。ショパンの全てを理解する事はできなくても、私の中で彼の想いをイメージすることができました。それがショパンの音楽を解釈する上で大いに参考になったと思います。もちろん解釈の鍵は楽譜そのものですが。

-----ショパンのルパートは理解できましたか?

R:ピアニストにとってとてもむずかしいですね。しかし私はあまりこだわりません。私の場合は直感です。音楽にとってこれが最も重要な点だと思うのですが。『自分の直感を純粋に受け入れる』私はそういうやり方です。ショパンはテンポルパートを使っていましたが、あまりおおげさでなく、自然に使っていたと思います。クリステイアン・ツイメルマン氏から『芸術家はいずれもみな、己の直感を確信するべきである.つまり自分の内面に湧き出る音楽によく耳を傾けなければならない.それが、独創的、個性的解釈のできる人間の条件である。』と言われました。この言葉は、私に大きな自信を与えてくれました。なぜなら私は作品を解釈する上で、特にショパンの音楽に関して、常に直感が大切な役割を果たします。『そのプレーズはこのように響くべきだ』と言う閃きがフラッシュ点滅のように浮かび、私の音楽性・美的感覚に沿った響きになっていきます。この答えは、いつか変わっていくかもしれませんが、今の私は、「直感から沸き出てくる通りに表現する」と、思っています。

「3年前の私ままだ未熟でステージではいつも緊張していました。」

-----ショパンの比較的初期の作品「前奏曲集」のCDを出されましたが、この個性の異なる24曲の小品からなる曲集の魅力はなんですか?

R:ショパンのプレリュードは限りなく魅力的です。多様さの中に多くのアイデイアが含まれています。私は24の小曲から、1つの循環を作りたいと思いました。例えば、作品28の各曲を一つのユニットとして、内部の緊張とドラマを持った全体として形作ろうとかと。ノクターン作品62は長年親しんできた曲であり、私はこの多様な顔をもつ傑作をどう解釈するか、納得のできるまでピアノに向かいました。これら2つの作品では、ショパンは和声でも色彩でも同時代を大きく先取りしていました。ロ長調(作品62-1)は印象派への比喩を促すものです。大切なのは、各曲においてのみならず、曲と曲との間にも同様に緊張感が保たれることです。

録音では、全てやり尽くしたと、満足しています。時が経つにつれて、解釈はきっと変わっていくかと思いますが、これが今の私の結果です。

-----同じく24曲(各12曲)ある、「練習曲集(作品10・25)」の音楽的魅力は何ですか?

R:ショパンのエチュードは、テクニックの取得だけではなく芸術作品として出来上がった完成された曲ですね。そしてテクニック的にも音楽的両面からも豊かでむずかしい曲です。左手のテクニックが特に大切ですね。音楽的に聴かせるにも十分楽しめリサイタルによく合いますね。もちろん私もこの曲集は練習しています。まだ、コンサートのブログラムに入っていませんが、特に作品25-6と作品10-7 を苦労して練習し克服した思い出があります。作品10-12(革命)、作品25-12はイントネーションがよく似ていています。作品25-12は打楽器を打つように弾く部分がはいります。作品10-12は有名で多くの聴衆は演奏会などでよく聴いているでしょう。これを演奏すると、聴衆の反応がすぐ伝わります。作品25-1の場合は、反応まで少し時間がかかりますね。両方ともエモーションは同じです。どちらがいいとか比べる事が出来ません。ピアニストは、それぞれの好みが違う聴衆の反応を感じながら演奏していると思いますが、リヒテルの演奏したエチュード作品10が最高と思います。

-----ショパンコンクールから3年を経て、ショパンの作品への考え方に変化がありましたか?

R:ショパンコンクールのためにプレリュードを6曲準備しました。昨年ドイツでCD録音のため演奏していたとき、やはりニュアンスが少し変わったと気がつきました。他の方には、気が付かれなかったかもしれませんが。経験によって変化したと思います。青いりんごがゆるやかに赤く熟すときの味の深み甘みの変化でしょうか?(笑)

 私のキャリアは始まったばかりです。3年前の私はまだまだ未熟で、ステージではいつも緊張していました。ストレスを強く感じ、聴衆への反応の心配もしました。今は、演奏の事だけ考え、表現する事だけ集中できるようになりました。これも全て、コンクール後に与えて頂いた演奏のチャンスの経験からです。心から感謝しています。

(終)

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