月刊ショパン 2007.6月掲載:ブレハッチを育てた街をたずねて  

文・写真:影山美恵子(ポーランド市民交流友の会)

ビドゴシチに到着

 「客席に友達を見つけました。なつかしさと嬉しさで、僕の中に新たな力が注がれたようで、演奏に勇気をくれました。日本から駆けつけてくれてありがとう。」

 演奏後、滞在先のホテルを訪問した時、日本から訪ねた私達を、ブレハッチは「友達」と呼んでくれた。ブレハッチファン20名は、彼を訪ねてドイツ演奏ツアーの最終日のミュンヘンのコンサートを鑑賞し、ブレハッチの住むポーランド・ナックオへの旅にでた。 ポーランド、ビドゴシチ市に着くと、行き交う人たちは「めったに見られない東洋人団体」に驚き、それが「日本からきたブレハッチファン」と知ると、人々は手を振ったり、一緒の写真を求めたり、ついにはテレビ局が私達を取材し全国ニュースで流したほどだった。いかにブレハッチが話題の人であり、人々に愛されているかが伺える。 いよいよナックオに到着。電車の段差に気をつけながら、ホームに降りると、一斉に歓声が沸いた。ブレハッチと、妹と父親が駅まで迎えに来てくれていた。

『日本から僕に会いに来てくれた友達。』と、ひとりひとりを握手で迎えてくれた。

 私達はブレハッチの導きで、徒歩で彼の卒業した中等高等学校を訪問。満面の笑みで出迎えた校長。母校の英雄が日本人ファンと登場したことで、学内は在校生の歓喜で騒然だった。「ブレハッチは勤勉で、首席で卒業しました。」

「ショパンコンクール期間中は、この廊下の掲示版は、ブレハッチの写真とニュースで一杯でした。」自慢の我が子のことのように、嬉しくてたまらない表情で校長は語った。『ピアニストにならなかったら、地理か歴史か国語の先生になったかも、』と黒板にかかっている地図で、教師の真似をしておどけて見せたり、気軽に後輩達に話しかけたり、ブレハッチ自身がリラックスして、緊張している私達に安心感を与えてくれた。

いよいよ自宅へ!

 『20人もご自宅に押しかけて、本当にいいのですか?』

『プロシェン、プロシェン(どうぞ、どうぞ)』と笑顔のお母さん。テーブルには見事な手作りケーキが大皿に並べられ、お父さん自ら『コーヒー?テイー?』とおもてなし。まるで親戚でも招いたような接待ぶり。どの部屋も開放されで、アルバムから思い出の品までなんでも見せてくれた。

『どんな曲がいいですか?』と、ブレハッチは、つぎからつぎと笑顔でリクエストに応え、後で確認したら10曲も演奏した。私達を信頼し、私達を心底暖かく歓迎してくれた。

『パウリナ、おいで、おいで。』と、妹を手招きし、二人並んで演奏してくれた。演奏曲は「雨に歌えば」。照れる妹に笑いかける優しい兄。それをドア越しから見守る両親。私達は、彼と彼を支える家族愛の全てを見せていただいた。

音楽家ブレハッチの原点へ

その後、家族と一緒にブレハッチの原点、オルガニストとして奉仕し、昨年はワルシャワフィルと「感謝の市民コンサート」を開催した教会へ出かけた。ブレハッチは生後1ケ月、ここで洗礼を受けた。牧師さんもブレハッチの大ファンで、幼少時代からのお話をしていただいた。ブレハッチは私達の気持ちをよく知っていた。するすると階段を駆け上がり、オルガン演奏始めた。教会に響く音色は心に滲み、最後の曲の『アベマリア』に、感謝の気持ちも混じって思わず涙が流れた。

 ポーランド流の遅い昼食は15:00を過ぎ、近くのレストランでいとこさんも参加し、まるで大家族の昼食会。私達はたくさんお話をした。『僕が、ショパン弾きでなかったら、みなさんは僕のファンでしたか?』ブレハッチからの質問に、私達は目を潤ませてうなずいた。『日本は、僕を発掘してくれた国。僕の生誕地。だから、日本へ行くと家に帰ったような気持ちになるのは、不思議です。(笑)』

『大学は今年卒業です。できたら、ツイメルマン氏に師事したい。でも彼は多忙なので、どうなるか未定です。スイス在住の彼に師事することになっても、ナックオからは離れません。ずう〜とここにいます。また、ナックオに来て下さい。』、とブレハッチは笑みながら語った。

ビドゴシチのブレハッチの通う音楽大学も訪問した。5月末から始まる日本公演の出発前に、卒業試験があるという。もちろん、卒業時には特別な賞が彼に用意されている。

『ブレハッチを訪ねて』旅の終わり、私達はすっかり彼の姉、母、兄になっていた! 別れが惜しく、来日公演の再会が待ち切れない。(終)

(参考)

自宅でのリクエスト演奏曲

@ ショパン ワルツ 作品34−3

A モシュコフスキー 花火

B バッハ イタリア協奏曲(第3楽章)

C ショパン プレリュード 作品28−23

D ショパン プレリュード 作品28−16

E ショパン マズルカ 作品56−2          

F ショパン ワルツ 作品64−1(子犬)

G リスト 小人の踊り                 

H リスト ハンガリー狂詩曲10番(エンディング)

I 雨にうたえば (パウリナとのデュオ)

J リスト リゴレット・パラフレーズ(エンディング

教会でのオルガン演奏

とても好きだというバッハの曲から、プレリュード、トッカータとフーガ、ショパンのプレリュードから2曲、アヴェ・マリア、果ては結婚行進曲まで披露

月刊ムジカノーヴァ 2007.6月号掲載

文・写真:影山美恵子(ポーランド市民交流友の会)

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